一冊の本
「白楽天」—(漢詩大系12,田中 克己,集英社,昭和39年発行)
屋形 稔
1
1新潟大学医学部・検査診断学
pp.1085
発行日 1986年6月10日
Published Date 1986/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220423
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人生の真髄は詩である.人は時にそれを真理と呼び,またロマンと呼んだりする.形として小説,随筆,和歌,俳句など色々の表現をとることもある.私は,1,100年前の白楽天の遺してくれた多くの漢詩にその凝縮したものを感ずる.白氏文集75巻,2,800を数えるという彼の漢詩からの選集がこの一冊である.
私達の年代は今の若い人々よりも日本の古典,中国の漢文に親しむことが多く,簡潔,雄勁な文章を素読する習慣をえたことから,幾百の現代ものより鮮やかに記憶に残る読書ができた.わが国の古典でも特に愛好した源氏物語,枕草紙,徒然草,そして西行や芭蕉に至るまで白楽天の影響が至る所に見られ,関心はこの漢詩にさかのぼらざるを得なかった.有名な「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き,香爐峯の雪は簾を撥げて看る」という美的表現や,「天に在りては願わくは比翼の鳥と作(な)り,地に在りては願わくは連理の枝と為らん」と愛誦された長恨歌にみる白楽天の二人の貴人の愛情への深い共感などはしばしば引用されている.
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