天地人
手練の業
聖
pp.173
発行日 1984年1月10日
Published Date 1984/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218877
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サン・マルコ寺院の裏手の小運河に架けられた橋を渡って案内されたのは,ヴェネツィア・ガラスを集めた美術館で,大小50を越える展示室がある.サン・マルコ広場を前にしたガラス工芸店の前で呼びとめられて,美術館まで案内されてきたのだが,千年も前から現代にいたる作品群を見て回るのは,急ぎ足でもかなりの疲労を覚える.目もあやな繊細優美な作品は,思わず嘆声を洩らさせる程であった.広い美術館の中を歩いているのは私の他には案内の若い男女だけで,靴音だけがひっそりとした館内に微かに響いていた.次の室に入る時は女性がその室の灯りをつけ,目の前に作品が輝いて現れる.
展示室の壁にひそやかに飾られた仮面舞踏会に用いられたような面が私を惹きつけた.青紫と白をあしらった陶磁とガラスが妖しいかげりを見せていた.宮廷の大広間で着飾った貴婦人達が仮面をつけて踊っているような気配が漂った.洗練された美とロマンの幻想の舞踏会の模様が浮かんできた.
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