今月の主題 実地医に必要な臨床検査のベース
正常値
臨床参考範囲とその意義
臼井 敏明
1
Toshiaki Usui
1
1長崎大学医学部・検査部
pp.1420-1421
発行日 1982年8月10日
Published Date 1982/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402217880
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正常値の矛盾と臨床参考範囲の提唱
一般に1つの臨床検査技術が確立されると,その検査に対して正常人を対象とした正常値が設定され,これを基準として異常群,すなわち疾患群を判別する過程が考えられている.しかし正確な正常値を求めようとして追求していくと,分析技術,正常人の範囲,個人の生活環境および行動の変化などの多くの問題点に遭遇し,次第に正常値の輪郭が曖昧となり,遂には求めることが不可能となる.
Smith(1946)はこの正常人または正常値の存在の否定についての哲学的考察を行っているが,筆者はこの点を論理の矛盾として明確に指摘した.すなわち,「正常値とは正常人の生体計測情報」であり,「正常人とは生体計測情報が正常値を示す人」である.したがって,正常値が決まらないと正常人が定義できず,逆に正常人が定義できなければ正常値が求まらないという自己矛盾があり,したがって正常値を理論的に定義することは不可能である.
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