検査室メモ
医学参考書に思う
大橋 経雄
1
1国立栃木療養所研究検査科
pp.586
発行日 1968年8月15日
Published Date 1968/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542916457
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欲しくても手にはいらなかった専門書
このごろは何を勉強するにもその道の参考書が思うように手に入るので,たいへん助かる。ただ医学関係は比較的値段が高いけれどこれはやむをえないことである。さてこの参考書であるが,かつて私が旧陸軍軍医学校の防研につとめていた頃は,それこそ太平洋戦争のさ中であって,何ひとつこれという参考書が手に入らなかった。私がつとめていた第2研は主としてチフスやコレラなどのワクチンを製造していたが,それだけに軍医も学生もまた技術者も研究には余念がない。私もこたぶんにもれずチフス菌の抗元性や家兎疫血清の抗菌作用などにっいて,いろいろとない知恵をしぼって実験をやってみたが,こんなときやはり必要にせまられるのは参考書である。当時,軍医学校では陸軍省医務局編の軍陣防疫学教程,あるいは細菌血清学指針など数冊の教科書を出していたが,とうていこれだけでは,ものの役にたたない。そこで何とか研究の指針になる参老書をと,退庁時間後あるいは日曜日に神田をはじめ本郷など各大学の町を片はしからさがしまわったが,結局は徒労に終わり何ひとつ良書は見つからず,ただ感に頼って研究をすすめるより方法がなかった。このようにほしいと思う参考書がどうしても手に入らない時代をすごしてきた私は,どんな参考書でも街にはんらんしている今の時代を心からうらやましく思っている。
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