天地人
職人芸がなぜ悪い
聖
pp.1257
発行日 1981年7月10日
Published Date 1981/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402217264
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近頃肩身の狭い思いをしている言葉に「職人」がある,先日,「大工職人を求む」と大書した看板を見かけたが,看板を作らせた棟梁の心意気が思われた.「職人」……大いに結構、以前は手わざに優れた職人は仕事に対する誇りと見識をもっていた.いまだとて職人自身は誇りと見識を失なってはいないだろうが,「職人」と呼ぶことを周囲が避けているような風潮が感じられる.職人のもつ叩き上げ練り上げられた仕事,「職人芸」は実に美事なものであり,これに芸術性が加わって芸術作品も生まれ出る.切り絵の宮田雅之画伯の刃先からは,めくるめく艶麗の美が作り出され,その作品はバチカン近代美術館に収納されるほどであるが,画伯は言う……紙を切ることは練習すればできる.切り出した線に芸術性が出せるかどうかだ.彼の作品は,職人芸に芸術が加味されて燦然と輝いている.
職人芸は一朝一夕にして到達できるものではない.鍛練と工夫と苦労と勘の結果生まれてくるものである.どれほどコンピュータが進化し,一見素晴らしいと思える作品が生み出されても,それには手づくりのような魂はない.刀匠の振り下す槌先から,あるいは硝子職人の伴棹(ともざお)の先から生まれる風鈴も,宙吹き3秒で音色が決まるといわれるがいずれも一瞬の技で命が吹き込まれる.
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