今月の主題 感染症—治療の実際
起炎菌別の対策
寄生虫症
大友 弘士
1
Hiroshi OHTOMO
1
1岐阜大学医学部・寄生虫学
pp.1508-1511
発行日 1980年10月10日
Published Date 1980/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216704
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
わが国における変遷
厚生行政年次報告書として刊行されている厚生白書でみるかぎり,わが国の寄生虫浸淫率は近年著しく減少したといっても過言ではあるまい.しかし,これは第2次大戦後猖獗をきわめた回虫,鉤虫など,ヒトを固有宿主とする腸管寄生虫症や,積極的な撲滅対策の推進によってその流行に終熄がみられた日本住血吸虫症および糸状虫症など特定の寄生虫症についていえる現象である.これに対して,鞭虫症はいまなお流行地域が少なからず存在するし,嶢虫症もその感染経路が家族生活,保育園・幼稚園,幼稚園などの幼児施設,小学校の集団生活と密接に関連しているため,著しい減少傾向はみられないほか,最近10年以上もの間患者発生や宮入貝棲息の報告がなかった千葉県利根川流域の河川敷に,日本住血吸虫の人体および乳牛への寄生や感染貝が検出されるなど,全般的にみた場合,わが国の寄生虫症の現状はいまなお幾多の問題を残し,軽視を許さないものがある.
一方,最近における食品流通機構の改善に伴う食生活の変化は食物を通して偶発的に感染する寄生虫症を広域化し,ペットブームは動物由来の寄生虫感染の増加を招来しつつある.さらに,世界保健機構(WHO)と国際食糧農業機構(FAO)は103の病原体を病因とする80疾患を包含する人畜共通感染症(Zoonoses)をとりあげ,そのなかで人畜共通の寄生虫症を重視している.
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.