臨床医のための心の科学
性別同一性(Gender Identity)—性行動への精神分析学的接近
及川 卓
1
1斉藤病院
pp.2168-2169
発行日 1979年11月10日
Published Date 1979/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216304
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はじめに
男が「男らしさ」を,女が「女らしさ」を身に着けるのは,ごく自然のなりゆきであり,それも人間にとって必然的な生物学的発達と考えがちである.しかし「男らしさ」「女らしさ」の獲得は,決して生物学的な自然現象ではなく,心理的・文化的要因と結びついた,きわめて複雑な発達のプロセスなのである.だからいかなる人間にとっても,「男らしさ」「女らしさ」を完成させていくことは,生やさしいことではない.それは長期間の試行錯誤の経験と学習を通して,はじめて身に着くものである.そこで,当然のことながら多方面よりの研究が必要とされるが,本稿では「性別同一性」という概念を基軸にして,このプロセスに精神分析学的な考察を加えてみよう.この概念は,フロイトによる精神性愛的研究に発するものではあるが,さまざまな隣接諸科学(遺伝学,内分泌学,発生学,生理学)の成果を検討・吟味をしつつ,推敲された概念でもある.残念なことではあるが,本稿ではこれら隣接諸科学と精神分析学との関係について,詳しく触れることができない.むしろ精神分析学的観点より,それも精神分析的臨床と研究より生み出されたものに限定して「性別同一性」を記述しておきたいと思う.
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