天地人
蘭方医ばやりに思う
地
pp.777
発行日 1977年5月10日
Published Date 1977/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207216
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蘭方医ばやりの昨今である.A新聞に連載されている司馬遼太郎の"胡蝣の夢"は毎朝の楽しみである.この小説は,伊之助という少年を中心人物とし,佐渡より出て松本良順について蘭学を習い,さらに佐倉の順天堂で医学を学ぶところまで筋は進んできている.独特の筆致で,江戸時代末期の社会構造や蘭方医の苦労を描き出し,心を躍らせてくれる.吉村昭の"ふおん・しいほるとの娘"は,S週刊誌に2年近く連載され毎週の楽しみとなっている.この小説は,シーボルトとその娘で日本最初の産科女医となったお稲を中心に,凄惨な目にあった蘭学者をも描いたもので,なかなかの大作である.またNHKの大河ドラマ"花神"は日曜の夜の楽しみであるが,目下,村田蔵六はお稲にオランダの医学原書を講じているところである.
吉村昭の"冬の鷹"も最近第2版が出された.この小説は,蘭学の先がけとなった前野良沢と杉田玄白を描いたものである.ターヘル・アナトミアは玄白により訳され「解体新書」として出版されたが,ここでは翻訳は専ら良澤が行ったものであるとしている.骨ケ原の腑分にターヘル・アナトミアを持参し,その図が実際と一致していることに感激してこの本の翻訳を決意する件や,後に「蘭学事始」に紹介された翻訳の苦難な様相,さらに「解体新書」出版に際して良澤がなぜ身をひいたか,玄白がどのような決意でこれを自分だけの訳としたかなど,その何れも深い感銘を与える.
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