私の失敗例・忘れられない患者
脱水症状と思ってやった点滴が……
伊藤 清昭
pp.431
発行日 1976年3月10日
Published Date 1976/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206490
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今から考えるとずいぶん無茶をしたものだと思う.
病棟の仕事も一段落した12時半頃,外来から緊急の入院の知らせがあって,すでにこちらへ担送中だという.詰所の掲示板は受持ち順が私になっていたので,午後の出張病院に少し遅れる由電話して待っていると,やって来た.60歳位の女性で,傾眠状態でほとんど喋れない.付き添ってきた娘さんに話をきくと,一昨日から下痢をして腹痛があったので,昨日も今日もほとんど食べたり飲んだりしていないという.2年間の義務出張帰りで,何でもやってやるという意気旺んだった私は,外来の検査室へ走って緊急用簡易検査箱をとってきた.糖尿病ではないし尿毒症でもなさそうである.皮膚は乾いて,舌はカサカサ,脈拍やや弱く脈圧が狭い.脱水症状であろうと思って採血して検査へ回し,ブドウ糖とリンゲルの点滴を開始して出張に出かけた.夕方早めに帰ってきて,行ってみると,呼吸は大きく,脈は高くて速い.意識の状態も改善なく様子が変である.点滴はリンゲルがまだ半分残っている.心電図をとってみて驚いた.QRS幅が著しく広くなって,テント状の高いTに連なっている.今にも心室細動に移行するのではないかと思われ,全身から汗が吹き出る感じであった.
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