私の失敗例・忘れられない患者
インターンを終えた頃の苦い経験
若松 英男
1
1小伝馬町内科診療所
pp.429
発行日 1976年3月10日
Published Date 1976/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206488
- 有料閲覧
- 文献概要
その1 今から18年前の夏の話である.1年間のローテイティング・インターンを終えて内科に入局した私は,3ヵ月目に信州S湖のほとりにあるS病院に1ヵ月間の短期出張を命ぜられた.仕事の内容はS病院の先輩の夏休み中の外来診療と当直を肩がわりすることであった.信州の夏は快適で,数日間は無事平穏だった.
着任後10日目頃のことだった.夜11時頃,看護室で当直の看護婦たちと雑談していると,救急往診依頼が来た.近くの農家の老人が急に呼吸困難を起こしたので,至急往診をたのむとの事で,それっと当直の看護婦をつれて飛び出し,約10分位小走りに走って患家についた.患家は貧しげな農家で,薄ベリを敷いた部屋の裸電球の下で,70歳位のガッシリした身体つきの老人が重ねた布団によりかかって,苦しげに浅い早い呼吸をしている.顔面,四肢ともに浮腫著明,チアノーゼがあり,脈は頻数微弱,胸部は両側に湿性ラ音を聴取する.うっ血性心不全であり,呼吸困難は心臓性喘息,肺浮腫であることは一目瞭然である.インターンの時にも治したことがある経験から,急いで20%ブドウ糖20ccと静注用ネオフィリン10ccを注射器につめさせ,静注を試みるも入らない.周りを取りかこむ4,5人の家族の見まもる中で,次第にあせってきた.
Copyright © 1976, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.