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インスリン療法の適応
糖尿病は体内でインスリン効果が不十分なために起こるものである.インスリン効果の不足は血糖の上昇として把握することができる.近年はradioimmunoassayによって血中のインスリン量を容易に測定できるようになった.その結果,古くから予想されていたように,糖尿病患者には血中のインスリンの欠乏している者と欠乏していない者,むしろ健常者よりも高値の者もいることが明らかになった.血中インスリンの低値の者で血糖が高いのは容易に理解されるが,インスリンが正常や高値でも血糖の高いのはどのような理由によるのであろうか.その1つは催糖尿病ホルモンがあってインスリン効果が減削されていることであるが,このほかにまだ実体は不明であるがhumoral insulin antagonist (s)の存在が考えられている.また,インスリン抗体の存在もその原因として考えられる.しかし,最も重要なことは組織のインスリンに対する感受性の低下ではなかろうか.現在この組織の感受性をin vivoの状態で知る方法がないので如何ともなし難いが,肝疾患で高血糖と高インスリン血症が共存することなどはインスリンに対する感受性低下を考えないと説明しにくい.Antoniadesの蛋白結合によるインスリン不活性化の考えもなお検討を要することであろう.
このように血中インスリンの測定が可能になってから,高血糖に対する理解も深まったが,ではこれをどのように治療と関連づけるかとなると,まだ未整理,不明の点が多い.低インスリン血症に対してはインスリンの補充療法をやればよいわけであるが,血中インスリンが正常ないし高値のものはどうすればよいのであろうか.インスリン効果を減殺している因子を除くことが第一である,たとえば,肥満がある場合は体重が減少すると脂肪組織のインスリン感受性が増すことが知られている.催糖尿病ホルモンの過剰があるときにはその治療をすればよいわけである.しかしそのような原因が見当たらないときはどうすればよいのか,これは今後検討すべき問題の1つである. では,高血糖があっても血中インスリンが低値’でなければ,インスリン療法の対象とはならないと結論してよいのであろうか,これは議論の分かれるところである.猫の膵を部分切除して,糖質コルチコイドを連日注射するとステロイド糖尿病が起こってくる…血糖も上昇し,尿糖も大量排泄される.この状態が3週間位続いた時点で,膵生険を行い,ラ島をみると,ラ島は細胞が水腫変性して,その部分が透過して見える.つぎに糖質コルチコイドの投与を連日続けながら,インスリンも同時に注射して血糖を下げると,尿糖量も減少し,ついには痕跡的になる.この状態が2,3週間続いた頃にまた膵をとって組織学的検索を行うと,一度変性したラ島が全く正常になっているのがみられる1).これはLukens教授の実験で,筆者は時々猫に注射するのを手伝ったのであるが,その組織所見の変化があまりにも対礁的であったのに強く印象づけられ,十数年経た今日でもその組織像を想い出すことができる,この成績をみて以来,高血糖が長く継続すればラ島は疲葱変性し,血糖を1E常化すれば早期ならばラ島機能は回復するという考えを払拭することができない.したがって筆者は.どうしても高血糖が改善されないときは,インスリンの使用を躊躇すべきではないと考えている.肥満があって適切な食事療法をやり,またスルポニル尿素剤を投与してもなお血糖の上昇が高度なときには(もしこのような例があるとすれば)インスリン注射を行うべきであると思う.血糖が正常化すればインスリンの必要量は減少し,恐らくインスリンなしでもよいほどに改善する,すなわち寛解が起こると考えられるからである.したがって筆者は,十分な期間食事療法を行ってもなお血糖が高値(250mg/dZ以上,少なくとも200mg/dl以上)のものは,インスリン療法の対象にすべきであると考えているし,またそれ以外に方法がないと思う.
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