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多発性動脈炎(PN)とよばれる疾患については現在なおその病因はもちろん,病理学的所見についても多くの混乱がある。すなわちKussmaul et Maier(1866)による最初の報告以来,ごく最近までは本症は病理学的に多くの中または小あるいは両方の動脈の炎症,壊死ならびに動脈瘤を伴う1つの独立した疾患であり,臨床的にはこれらの血管障害によって惹起される多臓器の機能障害と考えられてきた.しかし最近では恐らくはその原因および発病機転を異にする疾患の集合体であって,ただ結果として壊死性動脈炎あるいは汎血管炎という病理組織所見を示すにすぎないもので,1っの独立した疾患ではなく疾患群であるだろうという考え方が次第に有力になってきている1).そうはいっても病理学的に壊死性動脈炎の像を示していても,多発性動脈炎に分類されない一群の疾患がある.たとえば結核性脳膜炎の病巣や肺硬塞症の場合のように原因が明らかで,二次的に血管炎を起こしているもの,あるいはSLE,慢性関節リウマチ,鞏皮症,血清病およびリウマチ熱などのごとく多発性の動脈炎や血管炎が存在していても病理学的にも臨床的にも独立した疾患と考えられている疾患などである.
以上述べたことから明らかなように,PNは病理学的にも除外診断名である.したがって1ヵ所の小さな生検組織の所見のみでは,PNの診断を除外しうることがあっても,PNと確実に診断することはほとんど不可能であり,またたとえ数ヵ所に動脈炎の像を認める場合でも,局所に好酸球の浸潤が強くない場合にはPNの診断を保留すべきであるとされている1).現実には患者について数ヵ所の臓器あるいは組織を生検することができる場合は極めてまれである.したがってPNの診断をつけるためにはまずその臨床像の特徴を充分把握し,他の疾患を可能な限り除外せねばならない.しかしPNの臨床症状および所見は表1に示有ように本疾患に特異なものはなく,強いていえばその多彩さが特異といえる.したがってその臨床症状のみからはPNの疑いはおかれてもこれを確実に診断することは至難のわざであり,事実生検を行ないえなかった時代の本症の生前診断は欧米でも日本でも極めてまれである.てこに生検の必要性がある.
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