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質問 慢性気管支炎について,Fletcherの定義はあまりにも既往歴にたよりすぎ,簡単すぎるように思われますが,もう少し現症などを加味した合理的な定義(病理解剖学的といわぬまでも)はないでしょうか.(大阪府 A生 56歳)
答 Fletcherの定義のもの足りなさの原因の根元1はその定義が提唱された今から10数年前の当時の彼を含めたヨーロッパの呼吸器病学者の慢性気管支炎(CB),気管支喘息(BA),慢性肺気腫(CPE)についての認識が不十分であるということにある.Orie, M G. M. 編纂の"Bronchitis I,II,III"に発表されている一連のAmsterdamのInternat. Symposium 1961,1964,1969の内容がそれを示している.また,その頃のOliver, H. G. のThe Bronchi. tis-Emphysema,Eczema-Asthma Complex,H. K. Lewis,London1965も同様である.形態学的にはかなり明確な特徴が認められているにもかかわらず(Reid,その他),臨床家はこれを診断に近づけようとしなかった.医学は絶えず前進しているから,現在のわれわれのレベルからみて10数年前の定義がもの足りないのは当然であるが,当時としては止むを得なかったし,また疫学調査というものはまず大きな目の荒い網を投げることからはじまるのであるから,このような用い方ができたのである.これを内科専門医が用いるスケールとしては目が荒すぎるし,第1に上に述べたように根元的な欠陥がある.それは表にみられるように,彼のCBがSimple Bronchitisから次第に閉塞障害の度を強め,遂にhypoxiaおよびhypercapneaを伴うような不可逆的な閉塞障害,CPEに到るという概念である.彼によればCBには可逆性の閉塞障害型すなわち喘息があり,不可逆性の閉塞障害にCPE(hypoxiaとhypercapneaを伴う)とこれのないものがあるという.しかしCBと喘息とは明らかに異なるし,CBとCPEとは明らかに異なる.CBとCPEしとを結びつける細い糸はCPEのCentrilobular emphysema(CE型)だけである.CBはCBで止まる限りアノキシアを起こすことは少なく(蜂窩肺に進展しない限り)高COオ血症を生ずることはまずない.CBがCBで止まる限り予後は良好である.彼の時代にはPB(Panbronchiolitis)の認識も未だ生まれなかったし,Clinical entityとしてのBAやいCPEの把握も十分でなかった.もちろん現在でもbronchospasmの発生機構を含めなお不明の問題が残されている.
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