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はじめに
原発性副甲状腺機能亢進症は過去においては稀な疾患と考えられていたが,本邦においても過去10年の間にその報告が飛躍的に増加して,既に数百例を数えている.米国ではその増加は二とに菩しく,本症は既に公衆衛生学的問題であるともいわれ,決して珍しい疾患ではなくなってきている.最近ことに12チャンネルのオートアナライザーの使用が一般化して,血清カルシウムの測定が機械的に広く行なわれるようになってその増加はさらに著明になってきている.その結果,占典的な汎発性線維性骨炎を伴うものはほとんど見られず,腎結石を主とするものが多く,またchemi-cal hyperparathyroidismともいうべき,生化学所見のみを有する軽症型で,臨床症状のみられないものもしばしば経験されている.その結果,原発性副甲状腺機能亢進症の治療にしても,従来とは考え方が変わってきており,ただちに手術を行なって副甲状腺腺腫を除去するという積極的な方法とともに,手術をしないで経過を観察していこうとする保年的方法もとられており,これも本症の経験が飛躍的に増加してきたことと,軽症の中に発見しうるように診断の技術が進歩してきたことと関係があると思われる.
副甲状腺ホルモンのradioimmunoassayは人血中ホルモンについても可能になったが,現在なお牛副甲状腺ホルモンと人副甲状腺ホルモンの交叉免疫性を用いて検定している関係上,臨床的に原発性副甲状腺機能亢進症の診断に用いるためには,なお2,3の問題点がある.すなわち,原発性副甲状腺機能亢進症においては血中副甲状腺ホルモンレベルは当然正常者と比べて高いはずであるが,一部正常範囲にあるものがみとめられる.また正常者の中には血中副甲状腺ホルモン値が測定不能の低値を示すものがみとめられる.そこで血中副甲状腺ホルモン値のほかに,血清カルシウム値を参考として,血清カルシウム値の高いものでは通常,血中副甲状腺ホルモン値は低いはずであるのに,これが高いかまたは正常であることを原発性副甲状腺機能亢進症の指標とすることも提案された.筆者らの最近経験した1例を述べて原発性副甲状腺機能亢進症の診断のすすめ方について考えてみたい.
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