特集 これだけは知っておきたい診断のポイント
XVI.婦人科
1.妊婦の異常検査所見をどう考えるか
妊婦の無症候性細菌尿
松田 静治
1
1順大産婦人科
pp.1492-1493
発行日 1972年7月5日
Published Date 1972/7/5
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204361
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意義と頻度
婦人の尿路は解剖学的にも生理学的にも性器との関係が密接で,外陰,腟には常在菌が数多く存在しているため,尿路はつねに感染の危機にさらされているといっても過言でない。事実男子に比べて婦人における尿路感染症の発生頻度は数倍にも達する.さらに加えて妊婦では尿路が妊娠により局所的な影響を強く受けるようになる.すなわち腎盂および尿管の生理的拡張と蠕動運動の減少,尿管逆流現象とともに下部尿路(膀胱,尿道)は妊娠月数の進むにつれ,増大した子宮の圧迫を受け膀胱は形態的に変形をきたし,膀胱壁の弛緩が起こる.これの進んだ状態として分娩時には児頭の圧迫などの影響も加味されるから必然的に産褥期に短期間の膀胱麻痺をまねきやすい.したがって妊婦には尿滞留などの誘因により細菌感染の機会が増加するのは当然である.しかもなお仕末の悪いことは自覚症状がほとんどないため,無症候性細菌尿といっても一般の関心をひかず,尿検査を行なわないかぎり看過されるおそれがあることである.このような潜在性の腎盂腎炎を含む妊婦の無症候性細菌尿(この場合細菌尿とは尿1ml当り菌数が105=10万以上のものをいう)はしばしばみられるもので,なかには数年間にわたり進行し,患者は腎不全症状がはっきりするまで重篤なことに気がつかずにすごしてしまうことがある.とくに注目すべきは妊娠中毒症患者に細菌尿の頻度が高い点で,これは高血圧患者に比較的高率に尿路感染症が合併しているという報告とあわせて興味深い,そこで細菌尿の検査を日常行なうことができればなお多くの症例が発見されるものと思われる.
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