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肺血栓塞栓症に関する疫学の研究方法としては分析疫学的方法,特に症例調査による研究方法がとられ,その方法に基づいた成績の報告が多い.この研究方法で重要なことは本症の診断が正確にされており,またその記載が確実にされていなければならないということであるが,臨床医も病理学者も本症への関心の持ちかたに差があり,さらに観察基準も一定していないことが諸統計間の相違を生ずる一因になっていると考えられる.たとえば,本邦で最も信頼度の高い総合資料と思われる日本病理剖検輯報によって,剖検時の主要病変としてゴチック活字で特記された1964-1968年の本症(114症例)について,その臨床診断名と比較してみると,肺血栓塞栓硬塞症としているのが12.3%であり,心不全14%,肺炎10.5%,心筋硬塞4.3%,閉塞性肺疾患2.6%,冠硬化症0.8%,肺癌1.7%で,その他胸膜炎,肺化膿症,縦隔腫瘍等4.3%,脳卒中,高血圧性脳症,症候性精神病等と記載されたもの14.0%,診断不明のまま急死したと思われる症例が10.5%を占めている.また,Veterans Administration Hospital(Boston)において,本症と確定した72症例の最初の臨床診断が本症と診断されたものは58%であり,残りは心不全35%,肺炎17%,その他心筋硬塞,閉塞性肺疾患,冠疾患,肺癌等であった1).剖検時の主要病変と臨床診断との比較にも問題もあろうが,肺血栓塞栓症の頻度の高い欧米においてさえ前述の統計のように本症以外の疾患と診断することも多いことを考えると,本症の臨床統計,症例調査等の疫学的資料の検討・整理にはそれなりの考慮が必要であろう.
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