臨床家の遺伝学入門・2
遺伝子の概念
大倉 興司
1
1医歯大人類遺伝学
pp.193-196
発行日 1971年2月10日
Published Date 1971/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203502
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遺伝子の概念
さまざまな遺伝形質が遺伝病といった形で臨床的に取り扱われる.その中には、異常ヘモグロビンabnormal hemoglobinについて知られるように,そのグロビンを構成するα鎖やβ鎖の特定の位置のアミノ酸の置換によって生命の維持に重大な影響をもたらすような異常,すなわち1個の遺伝子が,1個のアミノ酸を決定するという,分子のレベルで考えてゆかねばならぬような形質がある.と同時に,たとえばWaardenburg症候群1)のように,形態学的に,生理学的に,生化学的に,あるいは発生学的にたがいになんら関連があるとは思えないようないくつかの症状が単一の遺伝子に支配されているような形質もある.
遺伝子geneとは何か,いかなるはたらきをするものかを明らかにすることは,遺伝学の重要な課題であるとともに,生物学の1つの究極の目的であり,生命の本態を知るための道なのである.遺伝生化学biochemical genetics,分子遺伝学mo-lecular genetics,分子生物学molecular biologyと呼ばれる新しい科学の分野から,近年その構造,そのはたらき,ことに蛋白の生合成に関する遺伝子の調節機構について新しい発見が続いて行なわれ,ついに遺伝子の合成,ひいては生命の合成の可能性さえうまれている.毎年のように,ノーベル賞がこの分野での,この問題に関する研究に与えられていることからみて,遺伝子のはたらきを知ることが,医学生物学biomedical scienceあるいは生命の科学life seienceにとっていかに重大なものか理解できよう.
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