EDITORIAL
腹痛
澤田 藤一郎
1
1小倉病院
pp.1173
発行日 1970年7月10日
Published Date 1970/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203266
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- 文献概要
病気の三分の一はお腹の病気であると書いたのを読んだことがある.お腹は大工場であり,台所のようなところであり便所でもあるので,しばしば病気になるのは当然といわなければならない.しかも重症で致命的なことも起こりうるので油断ができない.症状としていろいろなことが起こるが,最も重大なのは腹痛というべきである.つまりお腹にはいろいろな臓器がいっぱいつまっており,その故障がまず腹痛として現われてくることが多いので,この痛みから鑑別診断しなければならない.痛みの性質,強さの程度,継続時問,時期,位置などの外に,痛みは主観的なものなので,精神的要素もありうることも頭にいれておかなければならないので,なかなか複雑でむずかしい.したがって仔細にみれば千差万別で興味深く,臨床医は似た痛みでも日々違った例にあうので,これを診察し診断するは医師の醍醐味といえるかもしれない.
ところで胃でも腸でも肝臓でもこれをつまんでも切っても痛くないことはご承知の通りである.これは腹壁腹膜は実に敏感であるが内臓腹膜には痛覚がないからである.ただ例外として腸管では下端の肛門部,胆嚢では胆嚢管の胆嚢よりの始まりの部分,また膵臓ならびに腸間膜周囲の腹膜組織の部分が敏感である.腎盂,輸尿管,膀胱の頸部,精管,副睾丸などにも痛覚があるとせられておる.したがって胆石発作,急性膵炎の痛み,腎石発作,副睾丸炎の痛みなどはこれですべて説明される.
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