病理夜話
寄生虫
金子 仁
1,2
1国立東京第一病院病理
2日医大
pp.1096
発行日 1970年6月10日
Published Date 1970/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203248
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このごろ,東京で寄生虫はめったに見られなくなったが,私が医大を卒業した昭和22,3年ごろは戦争末期の家庭菜園のおかげで,剖検例の腸には全例,回虫がいた.なかには小腸の中で大きい糸玉を作って,そのためによるイレウスで死亡する患者さえいた.腸ばかりではなく,肝臓や胆嚢の中であばれている例もあったのである.忘れられない思い出は,食道癌の手術が非常にうまく成功したが,たった1匹のオスの回虫が食道の縫合部を食い破って,左胸腔内に落ち込み,化膿性肋膜炎を起こして亡くなった患者を解剖したことである.生前糞便中の虫卵は陰性で,なにが原因で死亡したかわからなかった例である.
インターンのとき,条虫(サナダ虫)を出したことがある.綿馬エキスを飲ませてしばらくすると長い虫の尾部が患者の肛門から顔をのぞかせる.それを洗面器の中に入れたお湯の中にお尻をつけさせながら割箸で,サナダ虫の尾部を巻きつけ,ゆっくり,ゆっくり巻きながら出していくのである.なにしろ多数の節からできているので,うっかり力をいれると,すぐに切れてしまう.頭部が残ると,そこからまた体や尾っぼができるので,頭までうまく取らねばならない.これがなかなかむずかしかったことを覚えている.患者は主として兵隊さんだったが,戦地で牛や豚を生のまま食べると罹患するのである.この病気になると悪性貧血で死ぬこともある.
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