特集 慢性疾患—明日の公衆衛生のために
寄生虫
松林 久吉
1
1慶大
pp.146-151
発行日 1956年5月10日
Published Date 1956/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201197
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日本には寄生虫が多い.即ち寄生虫の種類も多いし,寄生率も高く,又個々の人に寄生している虫の数もかなり多数に昇る場合も少なくない.多数の寄生虫の種類のうちで,我国の公衆衛生の面から特に重要なものとしては蛔虫,鈎虫(十二指腸虫)蟯虫,肺吸虫,肝吸虫,日本住血吸虫,糸状虫,赤痢アメーバ等を挙げる可きであろう.寄生虫感染による障害は軽度であつて本人に気づかれないか,或は気がついていてもそれが寄生虫によるものであることを知らず,いつまでも放置されている場合が多く,又そのために障害が漸次累加されて高度になつて初めて医師の診療を受けると云うような場合が珍らしくない.即ち慢性的に始まり,慢性的に経過すると云うのが普通である.そうして蛔虫,鈎虫,蟯虫,赤痢アメーバの如きは日本全国にわたつて甚だ多数の人々が之に感染していて,それから多くの人々が大なり小なり障害を受けており,上記の吸虫類,糸状虫は地域的に濃厚な流行があつて所謂地方病の典型的なものであり,その土地の人々は大きな障害を蒙つていると云う状況である.
之等の寄生虫の感染を予防すると云うことは公衆衛生上極めて重要なことであるが,それら伝播の源が多くの場合感染者の糞便にあることはよく知られている(例外とし肺吸虫は糞便と喀痰,糸状虫は伝播蚊).従つて糞便の合理的な処理,例えば虫卵を予め殺滅してから肥料に用いると云うが如きことが寄生虫一般に共通な予防法となる.
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