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成人病・老人病患者診療における臨床医の悩み
第一線の臨床医の診療のなかで,成人病・老人病(慢性疾患)の占める比率は最近急速に上昇している.まだ一般には感染症が中心の急性疾患の治療と慢性疾患の診療・管理が半々くらいのところが多いようであるが,私たちの経験では,すこし慢性疾患に力をいれると,こちらが主力になってしまうのが実情である.
成人病・老人病の診療に重点をおくようになると,外来であるかぎりは疾病管理に重点が移らざるをえない.そして企業のいわゆる健康管理を目標とした医務室にはみられない成果をあげることができる.これは第一線の臨床医の今後の生きていく方向を示していると思う.しかし,この過程で技術的にも医療機構的にも1つの難関に遭遇する.自分が疾病管理している患者の急変である.成人病・老人病患者と主治医との関係をみると,その疾病の性格よりして,急変時に患者がかならずしも地域的に診療圏内にいるとはかぎらない.これは急性疾患とはひどくちがうところである.成人病・老人病患者は遠くから診療を受けにくる患者も多く,自分の診療圏内でも日常は旅行したり仕事でかなり離れた勤務先に行っているのがふつうである.しかも急変は一般には,現在の技術水準では予測が困難であることが多いこの場合に,主治医がその急変にどう対処するかは重大問題である.私も10日ほどまえに,自分のみていた冠不全の患者が勤務先で会議中に急変(全身にしびれ感,胸内苦悶)があり往診依頼されたが,都内といっても遠く,こちらも診療時間中であったために窮地にたたされたことがある.幸いにも,その近くの医療機関に知りあいがあったのでさっそく連絡をとり,心筋硬塞の疑いがあるからというので外来診療中なのを無理して往診を頼み,救急入院させ,幸いにしてことなきを得た経験をもっている.
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