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Millerは腰痛の80〜90%は腰椎と骨盤内臓器に直接または間接に関係があるといい,一部の反論もあるが,WardやBullardは女性の腰痛の85%は産婦人科疾患にもとづくと述べているように腰痛は女性の宿命的な主訴の一つである。このことは脊椎や骨盤の構造上のちがいのほか,骨盤内の神経支配・血管ならびに淋巴系・支持組織などが男性に比較して複雑であり,しかも月経や妊娠・分娩・産褥など大きな影響を与える生理的現象が加わるためである。女性の腰痛の頻度は報告者によつてまちまちで,本邦でも安井は外来患者の4〜5%,筆者らは6.6%,自見らは15.8%,馬島は21.8%と報告している。腰痛だけを主訴するかどうかによつてもこの数字はちがつてくる。いま仮に腰痛を原因別で大きく分類してみると,筆者の得た成績は表のごとくになる。これらを年齢別にみると20〜30代がもつとも多数で40歳代がこれに次ぐ。このことは一般にこれら年齢層の患者が多いためでもあるが,この時期には腰痛の原因として月経や妊娠・産褥に直接関係するものが多くあげられており,骨盤内癒着などに基因するものが比較的多数であることからも,単に患者数の問題としてわりきることはできないようである。40歳代ではこれらの原因よりもむしろ腫瘍を原因とするものが多い。女性の腰痛を産婦人科の領域だけで考えると,腫瘍やがん浸潤などで直接的な圧迫によつて惹起されることはむしろまれなことで,多くは内分泌環境,慢性炎症,腫瘍,労働などにもとつく骨盤内充血に起因するものである。したがつて明らかに圧迫症状である場合はべつとして,女性の腰痛はまず骨盤内の循環障害を考え,性ホルモンその他でこれをのぞくよう努めるのが,第一の治療方針であろう。
患者の年齢と性別に注意を しかし私はまず頻度の点から年齢と性別とに注意する。40歳以上では心筋硬塞をも含めて冠不全症候群を考えるが,若い女性で上記の症状をもつて外来受診するものの多くは,neuroticで,トランキライザーの投与でよく軽快する。この時の訴えは喉頭や胸部に軽い痛みまたは圧迫感と狭窄感で嚥下障害があり食道の痙攣を思わせる。この場合,心電図などをとつて狭心発作と診断すると,かえつて症状を悪化させてしまう。
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