薬の反省
精神安定剤使用のさいの精神療法的な配慮
小此木 啓吾
1
1慶大・神経精神科
pp.1728-1729
発行日 1966年12月10日
Published Date 1966/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201586
- 有料閲覧
- 文献概要
薬物万能の現状
精神安定剤の使用が,神経症や心身症の治療の主役を演じているのは,周知のとおりである。しかし,われわれ精神科医の立場からみると,この現象は,必ずしも好ましいことではない。むしろ,本来なら,精神療法的なはたらきかけこそ,治療の主役にならなければならないからである。
ところが,実際の診療では,①一人々々の患者の診療時間にはかぎりがある,②健保点数のうえからみて,精神療法は時間と労力の消費が大きすぎて医師側の背負いこみになる,③患者は明日の健康より,いますぐの苦痛の軽減を求め,それが得られれば,目的を達したと思いやすいので,対症療法的な効用度の高い治療を歓迎する,④一般医療の慣習,とくにわが国の習慣では,医者とは"薬をくれる存在"である。医者も投薬を最良の手段,患者もお薬を最善のプレゼントと考えるしきたりがきわめて根強い,などの理由から,いぜんとして薬物投与が主役の位置をたもつているのが,わが国の現状である。
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.