特集 産婦人科医のための臨床薬理・1
催眠剤・精神安定剤
岩淵 庄之助
1
,
村田 高明
1
Shonosuke Iwabuchi
1
1慶応大学産婦人科
pp.627-631
発行日 1966年8月10日
Published Date 1966/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409203531
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
インクの香りのする朝刊より始まつて,深夜のテレビの終了まで私達の生活においては実に多くの薬の宣伝にさらされている。いわく強肝保健剤,総合ビタミン剤,消化剤,そして精神安定剤と。このような薬物の氾濫は一体何に由来しているのであろうか。もちろん文化の所産としての化学技術の向上にもよるであろうし,医界,薬業界の知的努力の結果でもあろう。また国民の保健衛生思想の普及なども考えられよう。しかし角度を変えて見渡したときそこにみるものは近代の複雑な社会機構,苛烈な生存競争の中にあつて多くの人々が人間関係の絆に苦しみ,近代産業は飽くことなく豪華で豊富な物質の攻勢をもつて個人の欲望を刺激し,環境と生活の不協和音の中にて生きんとする人間を圧迫して止まない姿がある。このような現代の生活において人々は不安にさらされ,緊張にかられ,不穏にとりのこされ,「ノイローゼ」なる医学術語が一般社会用語としてなんの不思議もなく用いられているこの時代の社会性の反映が—,マスコミを通じての疾病に対する教育は一面には人々に疾病に対する認識をもたらし国民の保健衛生に多大な貢献をなしたが,反面には疾病に対する根強い予期不安,恐怖を植えつけそのはねつかえりは薬物に対する無批判な依存と過大な期待が──,この薬物の氾濫の裏面を物語るものではないであろうか。
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.