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外勤先の某企業の診療所で拝見した患者さんである。10年前、62歳の時、検診で初めて糖尿病と診断されて私の外来を受診した。仕事の性質上、夜のお付き合いが避けられないようで、初診時、HbA1cがNGSP値で7.5%であった。当時としては最も広く使用されていたインスリン分泌刺激薬であるSU薬を投与したところ、1年くらいしてHbA1cが6.5%前後に改善し、低血糖ぎみになることもでてきたので、即効性のインスリン分泌刺激薬であるグリニド系の薬剤に変更した。そして2010年はじめに、グリニド系薬も中止して低血糖を起こす心配の少ないDPP4阻害薬に変更した。
患者さんは毎日の運動も続けて、良好な血糖コントロールを維持していた。同じ企業の診療所に同じ病気で受診されていた患者さんが何人もおられたが、そのなかでもこの患者さんは初めてお会いした時から、群を抜いて意志が強い方だった。他の方たちは、「会社の性質上、付き合いで飲まなければいけないことが多いんですよ」とか、「皆がタバコを吸っているので、自分だけやめるのもなかなか難しいんです」と言って、暴飲をやめられなかったり、禁煙をできない方も少なくなかった。また薬をうっかり飲み忘れる人も少なくなかった。しかし、この患者さんは宴会に出席しても暴飲暴食はしないし、毎朝スクワット100回を含む体操をして30分ウォーキングをしてから、電車で出勤していた。彼は真面目なだけでなく、大変明るくユーモアのある方だった。いつも私の診察室のドアを開けるとき、まるで私が患者であるかのように、「先生元気ですか?」と言いながらニコニコして入って来るので、私のほうが元気づけられていた。そして、HbA1cを6.5%前後に維持し続け、合併症などは全く起こさなかった。
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