連載 患者さんは人生の先生・2
東海道を歩いて糖尿病治療
出雲 博子
1
1聖路加国際病院内分泌代謝科
pp.369
発行日 2014年2月10日
Published Date 2014/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107345
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2003年1月、62歳の男性が、人間ドックで高血糖を指摘されて私の外来を受診した。180cm、88kgと恰幅が良く外人のような人だった。HbA1cは7.8%。食習慣を尋ねると、「最近小さなイタリア料理店を開いたばかりで、自分一人で調理し味見をするので、少しずつですが、ずーっと食べている状態です」とのこと。商社マンだったが妻と離婚し、自分でイタリアやニューヨークのイタリア料理店を食べ歩いて研究し、開業したそうである。運動習慣を聞くと「昼前から夜中までキッチンで立ちっ放しで足が浮腫むが、運動する時間はまったくなし」。これは難しいと思った。まず家から店まで毎日20分歩くよう勧めた。
患者さんの店は病院からの帰り道にあったので、ある夜、仕事の帰りにどんな様子か立ち寄ってみた。小さいがシャレた店でイタリアの写真が飾ってあった。店内は狭く、確かに彼はカウンター内の狭いキッチンに立ちっ放しという感じであった。とにかく立ったままでいないで時々屈伸をしたり、自ら料理を運んだり少しでも歩くことを勧めて帰ってきた。その後、1カ月、3カ月と診ている間に改善しHbA1cは6.5%位になっていた。しかし忙しかったのか、1年間規則正しく来院していた患者さんが一度受診をすっぽかした。その1カ月後、「足が赤く腫れて痛い」と電話してきたため、すぐ来院するよう指示した。両足が赤くパンパンに腫れ蜂窩織炎を起こしていた。血糖380mg/dL、HbA1c 9.8%に上昇していた。即入院させ、インスリン強化療法と抗菌薬の点滴を開始した。蜂窩織炎も血糖も順調に改善し2週間後退院した。
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