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1970年代の初頭に,IgEの発見者であるジョンズ・ホプキンス大学の石坂公成博士の研究室に留学していた岸本忠三博士は,B細胞に作用してIgGやIgE抗体の産生を促進する可溶性分子の存在を見出した.インターロイキン6(IL-6)研究の原点である.帰国後も,岸本はこの分子を追い続け,遂に1986年,岸本,平野俊夫博士らはB細胞刺激因子2/IL-6遺伝子のクローニングに成功した.IL-6の構造決定までには十数年間の歳月を要したが,その後の研究の展開は凄まじく,IL-6受容体やシグナル伝達分子であるgp130の構造決定,受容体から核への細胞内シグナル伝達経路の全貌,IL-6の作用の多様性やIL-6ファミリーサイトカインの作用の重複性の分子基盤が次々と解明され,筆者が当時留学していた米国の研究所においても,respectを込め,Kishimoto's armyと呼ばれていた程である.
IL-6は,抗体産生細胞への分化,CD4陽性免疫調節T細胞の分化,肝細胞からの急性期蛋白の産生誘導,血球系細胞の分化のみならず,さまざまな細胞の分化や活性化を調節する.感染や外傷など生体にストレスが生じた際に,IL-6は速やかに産生され,ストレスの排除に働く.しかし,心臓粘液腫やCastleman病の病態解析や,IL-6遺伝子導入や疾患動物モデルを用いる検討により,何らかの原因によるIL-6の持続的な産生がさまざまな免疫,炎症性疾患の発症,進展にかかわることが明らかとなった.そのため,IL-6そのものを治療薬として用いるのではなく,IL-6を標的とするIL-6阻害薬の開発が進められ,中外製薬と大阪大学との産学連携により,マウス抗体をヒト化した抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(商品名アクテムラ)が作製された.国内外での臨床試験において,トシリズマブは既存治療にて中~高活動性を有する関節リウマチに優れた有効性を示し,現在100カ国以上において,治療薬として承認されている.この功績により,岸本,平野は,スウェーデン王立科学アカデミーから「10年後には車椅子が必要なリウマチ患者さんがいなくなる」と高い評価を受け,2009年に,リウマチ学分野のノーベル賞といわれるクラフォード賞を受賞している.現在本邦での適応症は,①既存治療で効果不十分な関節リウマチ・多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎,②Castleman病に伴う諸症状および検査所見の改善・全身型若年性特発性関節炎であり,用法・用量は,それぞれ,①1回8 mg/kgを4週間隔で点滴静注,②1回8 mg/kgを2週間隔で点滴静注し,症状により1週間まで投与間隔の短縮可能となっている.トシリズマブ加療中においては,CRPなどの炎症所見や発熱,倦怠感などの全身症状がマスクされるので,感染症の合併を疑う際には,注意深い診療を要する.
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