連載 Festina lente
音と声と心と
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
pp.2007
発行日 2012年11月10日
Published Date 2012/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402106539
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「遠い地平線が消えて,ふかぶかとした夜の闇に心を休めるとき,遥か雲海の上を音もなく流れ去る気流は,たゆみない宇宙の営みを告げています.満点の星を戴くはてしない光の海を豊かに流れゆく風に心を開けば,きらめく星座の物語も聞こえてくる,夜の静寂(しじま)の何と饒舌なことでしょうか」――中学から高校にかけてよく聴いた,夜12時からのFM東京の番組「ジェットストリーム」冒頭の城達也さんの悠揚迫らざる深い声による朗読である.昔スキー場で流れていたようなイージーリスニング音楽ばかりなので,いっぱしの好みらしいことを言い出す年頃になると番組でかかる曲には惹かれなくなっていったが,試験前の一夜漬けで慌てているときなど,城さんの声はどれほど鎮静効果があったことか.
会議も講義も電話も診察もすべて声がものをいう.時には講演の録音のテープ起こしで自分の声を何度も聴く破目になるが,その度につくづく嫌気がさす.しかし当の本人がうんざりする声を聴かされている患者や学生のことを思えば,我慢せねばならないのはいうまでもない.そう思うとますますいたたまれない思いになる.
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