連載 限りある命をおしんで・10
琴の音
工藤 良子
1
1前日赤中央病院癌センター
pp.50-52
発行日 1962年3月15日
Published Date 1962/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911584
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昼食後ロビーの長椅子に腰をおろして,ふとみるとだれかが忘れて行ったらしいポケット用の古びた一冊の聖書と朝刊が置かれてあった。その一ページをあくるとぱらぱらと2,3枚の美しいカードが床に落ちた。拾いあげてみると裏に小さな鉛筆書きでマルコ伝第1章40〜45節と記されてあった。私はそのページを開いた。
一人の癩病がみもとに来り,跪づき請ひて言ふ,「御意ならば,我を清くなし給ふを得ん」。イエス憫みて,手をさしのべ彼につげて,「わが意なり,潔くなれ」と言ひ給へば,直ちに癩病さりて,厳しく戒めて言ひ給ふ「つゝしみて誰にも語るな。唯ゆきて己を祭司に見せモーゼが命じたる物を汝の潔めのために献げて人々に証(あかし)せよ」。
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