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日本ではまだ一般的ではないようですが,米国のICUなどでは“withdrawal of artificial life support(延命治療を止めること)”は,比較的よく見られる光景です.ただ「いとも簡単に呼吸器が止められ,葛藤や困難は見られない」というのは,言い過ぎのような気がします.当然,米国でも葛藤や,それに伴うドラマが見られることも少なからずあります.「よく見られる光景」であるがゆえに,医師もスタッフも経験が豊富で,それに伴う準備ができているのは確かです.そういった経験がない学生や研修医を,ベッドサイドでどのように教育し,共感,共有してもらうかについて,ICU回診の一風景を紹介したいと思います.
先日,肺癌と診断されたときには,すでに全身状態が悪い患者が入院してきました.全身転移で酸素が離せず,低ナトリウム,低栄養,腎機能,肝機能障害も進み,まさに抗がん剤治療もままならないであろう状態でした.入院して数日で呼吸不全に陥り,本人に確認のうえで挿管がされ,ICUに転送されました.「なぜこんな患者に挿管するんだ」と思われる方もいると思います.患者の病室の前で担当レジデントの患者背景,入院経過のプレゼンが終わった後からが,ICU指導医の真骨頂です.「なぜ,挿管がされたのか」「挿管するべきではなかったのか」がティーチングの出発点です.学生,レジデントが意見を述べていきます.“I think he was not ready(彼は準備がまだできていなかったと思う)”とその患者を担当する学生の一言に,指導医が反応しました.「同じステージⅣ,転移性癌の患者でも,さまざまな治療をすでに受けた患者(heavily treated patient),全く治療を受けていない患者(treatment naive patient)では,患者あるいは家族の心の準備が,全く違うよね.他にはどんなことが考えられる?」と彼女はさらに発言を促します.どういう説明を受けたか,患者の年齢,親類あるいは友人に癌で亡くなった人がいるかなど,さまざまな意見がでます.「癌の種類はどう?」聞かれて皆きょとんとしています.「リンパ腫などの血液癌や,肺の小細胞癌など,抗がん剤が劇的に効くことがある癌では,挿管していても抗がん剤治療をすることもあるわよね?」と僕に話を振ってきます.「状況をよく説明したうえで」とことわりながら,簡単に非小細胞肺癌と小細胞癌の抗がん剤の奏効率の違いを説明すると,非小細胞肺癌に抗がん剤があまり効かないことに学生,研修医はびっくりした様子でした.
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