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下痢や便秘といった便通異常は,日常診療で多く遭遇する症候ですが,原因あるいは病因が十分に説明できる場合は少なく,対症療法ですませてしまうことが多いようです.大部分の症例では無投薬で様子をみていてもself-limitingに軽快して問題ないのですが,なかには重大な疾患の始まりであったり,便通異常がアラームサインであったりする可能性もあり,決して看過できない症状であるといえます.また,便通異常が長引く場合,あるいは難治性の場合にどのように診断・治療を進めてゆくかについて,内科医はもちろんのこと消化器病専門医でも判断が困難なケースがしばしばみられます.そのような場合に患者のQOLは著しく損なわれているケースが多く,治療がうまくゆかないと薬の種類や服薬量のみ増えてゆく,あるいはドクターショッピングのような状況に陥ることもあるようで,その際にやたらと画像診断や内視鏡検査を繰り返してよいのかという疑問も生じます.したがって実際の診療に際しては,病因病態を探りつつ,適切な治療法を提供してゆくというバランスの良さが強く求められる症候といえるのではないでしょうか.本特集ではそのような背景を踏まえ,下痢・便秘に関する最新の情報や知見をもとに,それぞれの分野の立場から多角的に捉え,便通異常に対してどのように診療を進めてゆくのが最もふさわしいか,ご紹介いただくように企画いたしました.
20世紀後半に胃や大腸の内視鏡的形態学が急激な発展を遂げたこともあり,消化管運動や消化吸収などの消化管機能に関する学問の進歩が一時停滞しているような状況でありました.しかし,特に近年ダブルバルーン小腸内視鏡,カプセル内視鏡などの新しい診断モダリティが出現したことにより,今まで暗黒の大陸といわれていた小腸にも十分目が届くようになったことから,小腸疾患への関心や知識も今までになく拡がっております.また,Rome委員会のもとで機能性消化管疾患の定義と系統付けがなされ,過敏性腸症候群ばかりでなく,機能性の便秘や下痢についても体系づけられ,多くの研究が行われるようになってきました.それに呼応するかのように機能性の下痢や便秘疾患に対して作用機序の異なった種々の新しい薬物が今までになく盛んに開発されている状況です.さらに,わが国での高齢者人口の増大を背景に高齢者に対する特別な配慮の必要性,あるいは女性特有のライフサイクルを考慮した性差医療など新しい側面がクローズアップされ,それに関連した便通異常にも重点を置く必要性がさらに増しております.
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