特集 公衆衛生と個人情報保護
疫学研究におけるインフォームド・コンセントと倫理
玉腰 暁子
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1名古屋大学大学院医学研究科健康社会医学専攻社会生命科学講座予防医学/医学推計・判断学
pp.542-547
発行日 2000年8月15日
Published Date 2000/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902341
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インフォームド・コンセント1,2)
今日のインフォームド・コンセントの法理の台頭までには二つの流れがあると考えられる.一つは,第二次世界大戦前に行われた生体実験への反省である.ナチスドイツに対する戦争裁判の中で,医学的な実験には被験者本人の同意が必要であるという「道徳的・倫理的・法律的概念を満たすために従うべき基本的諸原則」(ニュルンベルグ綱領,1947年)が定められた.後の世界医師会総会による「ヘルシンキ宣言」(1964年)では,人体実験に関してはインフォームド・コンセントが必要とされ,インフォームド・コンセントという概念が生じてきた(もっとも,インフォームド・コンセントの言葉が用いられるようになったのは1975年のヘルシンキ宣言東京改訂以降である).
もう一つは,1950年代からの公民権運動をはじめとする人権運動である.特に米国においては,臨床の現場における患者の人権運動をきっかけとして,インフォームド・コンセントは医療過誤訴訟における法理として確立された.初めてインフォームド・コンセントの言葉が判決に現れたのは,1957年の医療過誤事件においてであり,その判決では,20世紀初めから確立されていた,医師が医学的侵襲を含む医療行為を患者の同意なしに実施すれば,医師は身体的な侵害(暴行)を犯したことになるという原則に加えて,医師には,患者から同意を得る前に,同意するかどうかを決めるために必要なあらゆることがらを説明する義務が課せられると判示された.
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