特集 公衆衛生の経済学
公衆衛生(保健医療福祉)への投資とその雇用効果
松田 晋哉
1
1産業医科大学医学部公衆衛生学教室
pp.30-33
発行日 1999年1月15日
Published Date 1999/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902015
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21世紀に本格化する高齢社会の到来に対処するために,現在わが国においては社会保障制度の大規模な改革が実行に移されつつある.特に,新ゴールドプランに示された基盤整備は,豊かな高齢社会を実現するために必要不可欠なものである.しかし,低経済成長期にあって,従来から非生産部門と位置づけられている保健医療福祉部門への過剰な資金投入は経済成長の妨げとなるという意見も強い.この根拠としては,「人口の高齢化は労働力の減少をもたらし,高齢期の貯蓄の取り崩しなどによる貯蓄率の低下を生じさせることにより,わが国の経済活力(実質経済成長率)の低下をもたらす.また,直接的には社会保障給付の増加をもたらすため,社会全体のコスト負担を増大させる.またそのための経費を税金あるいは社会保険料で負担することから国民負担率を引き上げ,その結果として国民の労働意欲を阻害する」という連関が想定されている.しかし,宮島も指摘しているようにこの仮説は必ずしも立証されているものではない1).
また,経済のサービス化とともにサービス部門の国民経済全体の中で果たしている役割は近年急速に拡大しており,したがって,保健医療福祉部門についても,表1に整理したように国民経済に与えうる影響についてマイナス面のみならず,プラス面からも分析する必要がある2).そこで,本稿においては,これまでの研究成果に基づいて,保健医療福祉への投資の経済波及効果について検討してみたい.
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