連載 暮らしに潜む環境問題
放射線と健康―チェルノブイリ原発事故による放射線汚染と被害評価
桜井 醇児
1
1富山大学理学部
pp.344-348
発行日 1997年5月15日
Published Date 1997/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901691
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1.チェルノブイリ原発事故による放射線汚染
1986年4月26日,運転期間を終わって性能特性試験を行っていたチェルノブイリ原発は突然出力が激増し,大爆発を起こした.原発内部に溜まっていた死の灰が大量に空中にばらまかれてしまった.異常な放射線の増加がスウェーデンで検出されたニュースはまたたく間に全世界に広がった.ソ連政府も重い腰を上げ,3日後にチェルノブイリ原発の事故を認める声明を発表する.爆発により舞い上がった死の灰は上空1万メートルに達し,ジェット気流に乗り,1週間後には日本にも死の灰で汚染された雨が降り,パニックを引き起こした.
出力100万キロワットの原発を1日稼働すると,原発の内部には広島原爆3発分の死の灰が溜まる.チェルノブイリ原発では事故以前,2年近く運転を行っていたので,広島原爆の死の灰およそ2,000発分(=3×365×2)が原発内部に溜まっており,その相当部分がまき散らされたのだ.広島では,原爆の直接の放射線被曝は受けなかったが,黒い雨に含まれていた死の灰の放射線被曝を受けて死亡した人も多い.チェルノブイリ原発事故による死の灰はけた違いに多かったのだ.すさましさが分かる.
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