特集 歯周疾患の予防—8020運動の達成に向けて
歯科医院における歯周疾患予防の実践—感染症としての歯周病—細菌学的視点からの取り組み
熊谷 崇
1
1日吉歯科診療所
pp.643-645
発行日 1996年9月15日
Published Date 1996/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901551
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昔の人々は老人になれば歯は自然に抜け落ちてゆくものと考えていた.歯周病の研究の進んだ現在では,もはやそのような考え方をすることはなくなったが,現在でも老人になると多くの歯が喪失してしまうという現実に大きな変化がみられないのは残念なことである.
歯周病が細菌感染症であることに異論を唱える人は少ないと思われるが,感染症としての歯周病が非常に多様性のある疾患であることを十分に理解する必要がある.一般的に感染症としての歯周病を考えるとき,口腔内の細菌量が生体の許容量を超えると生体にとって害となる細菌が増え病気を引き起こすとされる内因性の感染を連想することが多い.このため細菌性プラークの量をコントロールするという意味で「プラークコントロール」という言葉が使われ,ブラッシングの効用が広く浸透していった.しかし,すべての歯周病を内因性感染だけで説明するのは困難である.歯周病の細菌学的研究によって,ある種の歯周病においては縁下プラーク中に,それらの歯周病の発症や進行にかかわる特殊で有害な細菌の存在が明らかとなった.これらの菌は親子または夫婦間での感染が立証され,こうした感染を内因性の感染と区別し,外因性の感染として位置付けて考えるようになった.さらに免疫学的な研究が進むと,歯周病の進行は細菌の感染によってのみ左右されるのではなく,宿主であるわれわれの身体の免疫抵抗力が歯周病の進行に大きくかかわっていることも明らかにされてきた.
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