特集 産業保健の国際動向
産業疫学
櫻井 治彦
1
1慶應義塾大学医学部衛生学
pp.174-179
発行日 1996年3月15日
Published Date 1996/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901439
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
産業疫学という言葉はそう一般的ではないかも知れないが,最近はしばしば使われるようになった.その意味は,産業保健の領域に対して用いられる疫学の方法論と,それによって得られる知識ということである.疫学は,医学にとって実験的方法と並んで最も重要な研究方法であり,他の方法で代替することはできない.したがって医学のどの領域にとっても必要欠くべからざるものだが,特に予防の学である衛生学を基礎とする産業保健にとってその意義は大きい.
疫学は人の集団で実際に起こっている健康事象を適切,巧妙に観察し,因果関係の有無とその定量性を明らかにする方法論である.これは人についてのデータであるという大きな強みを持っているが,後追いであるということは欠点といえる.産業保健の例をとれば,有害な作業環境とそれによる健康障害の関係を明らかにするのに,疫学が効力を発揮するが,その一歩も二歩も前に,予防するべきであったともいえるであろう.その意味では,中毒学などの基礎的な環境科学によって各種環境要因の有害性を定量的に予測し,予防手段を講ずるのが最善である.その場合には,疫学は明らかな健康障害が起こっていないことを検証するために用いられることになる.いずれにしても,疫学的方法を適用すべき対象集団は,一般人口であろうと産業労働者の集団であろうと,今後とも決して尽きることはないであろう.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.