連載 保健活動—心に残るこの1例
“精神障害者が地域で暮らす”ということ
錦織 智恵美
1,2
1広島県呉総合福祉保健センター
2広島呉保健所竹原支所
pp.437
発行日 1995年6月15日
Published Date 1995/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901290
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28歳の精神分裂病のNさんは,高校を卒業後家を出て働いていたが,7年前酒を飲んで暴れたことがきっかけとなり警察に保護され,自宅に戻った.その後仕事もせず家でぶらぶらと過ごしていた.家族は,本人の言動がおかしいのは憑き物がついているからと思い,祈とう所に通い自分たちの力で治そうと本人の面倒を見ていた.2〜3年たつうちに,入浴もせず家の中に引きこもり人との接触を断ち,幻覚妄想による独語や暴力がひどくなった.家族としても対応しきれなくなり平成4年11月,警察に相談し保健所を紹介されたことがきっかけでかかわり始めた.保健婦の家庭訪問や専門医との訪問などを重ねていくことで平成5年4月に入院治療を開始し,半年後の9月には退院,その後通院治療を続けていた.家庭が経済的に苦しいこと,病気に対する認識が本人・両親ともに不足していることで受診の遅れや服薬の中断などもあったが,主治医と連携をとりながら病状が悪化しないように,受診勧奨や病気の理解を深めてもらうよう訪問指導を重ねていた.Nさんが治療に至るまでの症状の激しい時期には地域の中では問題とされなかったが,入院治療も終わり自宅で社会復帰に向けて通院治療を始めて,つまり幻覚や妄想も薬でおさまって回復へとむかいだして徐々に社会に出て行こうとした時に,次のような問題が地域の中で起こった.それは94年の2月のことである.Nさんの家は小学校の通学路にあり,小学生とNさんは出会えばお互いに手を振り合うという形で顔見知りになっていた.
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