特集 精神障害者の社会復帰
精神障害者の社会復帰
斎藤 正彦
1
,
松下 正明
1
1東京大学医学部精神医学教室
pp.3-7
発行日 1994年1月15日
Published Date 1994/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900948
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■はじめに
1983年の厚生省精神衛生実態調査2)によれば,当時,わが国の精神病院に入院中であった患者の57%が,近い将来に退院可能であると判断されている.しかし,この調査を詳細に見てみれば,自立した社会生活が可能であると判断されるものは8.4%にすぎず,22.0%は「条件が整えば」退院可能,残る26.5%は「かなり困難を伴うが可能性はある」とされるものである.しかも,条件が整えば退院が可能とした例のうち,75.5%が家族の受入れを条件としていることを考えれば,先の退院可能な患者の割合を,独立して社会復帰が可能な患者の割合と受け取ることはできない.近年,しばしば耳にする「社会的入院」という言葉も,慎重に考えてみる必要がある.病院に長期入院するかわりに,精神障害者の家族にその保護を押し付けるような状況が,精神障害者やその家族にとって,よりよい状況であるかどうかは疑わしいし,そうした社会政策を採用するのであれば,社会は家族に対して十分な保証を考えるべきである.精神障害者の脱病院,脱施設,社会復帰問題が,1960年代から70年代の楽観主義の時代を遠くはなれて,厳しい現実に直面しながら新たな展開を模索する時代に入って久しい.
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