連載 [連続小説]コロナのない保健所の日記・6
トーゴを待ちながら
関 なおみ
Naomi SEKI
pp.958-970
発行日 2023年9月15日
Published Date 2023/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401210141
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七月二四日 金曜日 晴天 世の中は夏休みモード
講堂に垂れ下がるスクリーンに、ばりばりという音と共に、縦にたくさんの筋が入った傷だらけの白黒の画像が映し出される。端正な手書きの「新らしい保健所」(1)という文字が表示され、昭和初期の無声映画時代によく使われるようなオーケストラ音楽が流れ始めた。旧字体で「製作 連合軍總司令部 民間情報教育局 並びに 厚生省 協力 連合軍總司令部 公衆衛生福祉局」といった物々しいクレジットが続いた後、縦書きで日本国憲法第二五条 生存権の条文が表示され、その後やっと映像が始まった。
幼い子どもの死を看取った医師が、保健所に「死因が日本脳炎だ」と電話をすると、緊迫した雰囲気の音楽に切り変わり、保健所長が衛生課の職員と地図を広げて疫学調査と消毒範囲を検討、これを受け、作業服を着た防疫班が消毒器材を大八車に積んで出動する。以降、次々と各分野の保健所職員の活躍が映し出された後、最後に全国各地に設置された保健所が次々と映し出され、最高潮に盛り上がった音楽と共に、「明るい健康な日本を作り上げるため、保健所はいま全国的活動を開始したのであります! そしてこれらの保健所は、皆さんの保健所なのであります!」
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