連載 [連続小説]コロナのない保健所の日記・1【新連載】
どこから行っても遠い保健所
関 なおみ
Naomi SEKI
pp.364-374
発行日 2023年4月15日
Published Date 2023/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401210034
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二〇一五年三月二七日金曜日、晴天。
通勤途中にある新宿区立西戸山公園の桜は、年に一度の晴れ姿を見せようとほころび始めていたが、東京都健康安全研究センター(1)の職員はそれに気付く余裕もなく、朝から皆そわそわしていて、仕事が手に付かない者もいた。多分今日が異動人事の内示の日(2)だとうわさされていたからである。この職場に着任して一年目の真歩は、異動なんて他人事だと高をくくり、自席のパソコンで二つのモニターを駆使しながら、感染症週報のデータチェックをしつつ、ウェブ会議の準備をしていた。
「橘先生、部長が呼んでます。」
田原さんが、真歩を呼びに来た。
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