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はじめに
世界保健機関(World Health Organization:WHO)が新たな健康戦略として1986年にオタワ憲章として「ヘルスプロモーション」(health promotion)を提唱して33年となる1).個々人の健康教育にとどまらず,「地域活動の強化」や,「健康支援のための環境づくり」などを推奨している.わが国においても2000年に「21世紀における国民健康づくり運動」,いわゆる「健康日本21」1)の総論にその理念が示されている.2012年には,「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」〔健康日本21(第二次)〕が発出された.健康寿命の延伸と健康格差の縮小とともに,健康を支え,守るための社会環境を整備するなどの基本的な方向を示し,ヘルスプロモーションを推奨している.
国は2012年に「地域保健対策の推進に関する基本的な指針の一部改正について」,2013年に「地域における保健師の保健活動に関する指針」を示し,ライフサイクルを通じた健康づくりを支援するため,ソーシャルキャピタルを醸成し,学校や企業などの関係機関との幅広い連携を図りつつ社会環境の改善に取り組むなど,地域の特性を生かした健康なまちづくりを推進している2).
一方,福祉分野では,超高齢社会の進展に伴い,高齢者を地域ぐるみで支え合う仕組みづくりである「地域包括ケアシステムの深化・推進」や,地域住民や地域の多様な主体が「我が事」として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで,住民一人一人の暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会づくりである「地域共生社会」が進められている3).
2015年に国際連合(国連)のサミットにおいて,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」4)においてSDGs(sustainable development goals:持続可能な開発目標)が採択され,開発目標の17項目のうち3項目に健康福祉の分野が組み入れられた.わが国においてもSDGsの対策本部が立ち上げられ,2016年12月に「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が決定された5).
上記の①健康なまちづくり,②地域包括ケアシステム,③地域共生社会づくり,④SDGsの推進の4つの施策はいずれも多様な主体が地域の特性や特徴に応じて,地域の人材や資源などを生かして課題解決をしていく「まちづくり」である.地域での具体的な実効性のある展開に当たっては,地域それぞれが地域把握・地区診断から計画・実行・評価まで同様のプロセスを踏むことになる.また,地域リーダーや担い手などの人材の育成についても重なり合うことが多い.これらを部局横断的に統合して進めることが肝要であるが,なかなか戦略的に行われていない.
推進方法は二つのアプローチから成り立っていると考えられる.一つ目は,多様な主体が得意とする,あるいは関連する分野を進めていくテーマ型アプローチである.二つ目は,地域内の共通する課題を地域内の多様な関係者間で解決していくエリア型アプローチである.
熊本市は,市町村レベルの取り組みとして全国に先駆けて慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)対策6)を多様な関係者間で展開した.本稿では,新規人工透析患者数の減少などの成果を上げたテーマ型アプローチの事例と,まちづくり部門など多部局と連携して展開しているエリア型アプローチの小学校区単位の健康まちづくりの事例を紹介する.また,SDGs達成に向けた推進のあり方を考察する.
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