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はじめに
2015年9月の「国際連合(国連)持続可能な開発サミット」において,150を超える加盟国首脳の参加の下,「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」1)(以下,アジェンダ2030)が採択された.このアジェンダ(行動計画)では,持続可能な社会の実現に向けた2030年までの具体的な目標として,貧困や飢餓の撲滅,クリーンエネルギーの普及,気候変動対策,平和的社会の構築など17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)が掲げられている.SDGsは,開発援助における2015年までの国際目標であった「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals:MDGs)2)の後継として議論されてきた.SDGsの対象はMDGsより広く,持続可能な社会の重要な要素としてPeople(人間),Planet(地球),Prosperity(繁栄),Peace(平和),Partnership(パートナーシップ)の5Pが掲げられ,その目標は環境,経済,社会の幅広い分野にわたっている.
「持続可能な開発」(sustainable development)の理念は資源の有限性を前提にしている.1987年に「環境と開発に関する世界委員会」(World Commission on Environment and Development:WCED)によって提唱され,1992年の地球サミット以降,世界的に広く共有されるようになった.持続可能な開発は「将来世代のニーズを損なうことなく,現在の世代のニーズを満たすこと」と定義されており3),当初は経済と環境の両立を目指すことが強調されていたが,現在では,環境制約や社会的課題を解決しながら発展することとの考え方が一般的になっている.特にアジェンダ2030には基本理念として「誰一人取り残さない」(no one will be left behind)という包摂性が示されており,アジェンダ全体を通してその理念が貫かれている点が重要である.
SDGsの特色の一つに普遍性がある4).アジェンダ2030では,国際社会,地域,国,地方など,あらゆるレベルにおいて各主体が取り組むことが求められる一方で,各国の国情,能力,開発水準を考慮に入れ,国内の政策と優先課題を尊重するとしている.つまり,SDGsは普遍的な性格を有するものの,その達成に向けては,各地域の事情や優先課題に応じたテーラーメードの目標設定や政策を実施することができるのである.
2019年でSDGsの採択から3年以上がたち,わが国においてもSDGs達成に向けた取り組みが官民で加速している.日本は急速な人口減少・少子高齢化を迎えており,地方の過疎化や活力低下,都市への一極集中,財政悪化などの問題を抱えている.この中で,限られた資源をどう配分・活用して,持続的に発展していくかが課題である.その解決のために,一つの課題のみを対象に対策を検討しても,限界や他の課題への副作用がある.経済,社会および環境の三側面を不可分のものとして調和させる統合的取り組みが求められる.こうした包括的なアプローチは,まさにSDGsの基本的な考え方であり,SDGsは分野横断的な取り組みを進めるツールとしての性格を有している.SDGsの本質は成長戦略ともいわれる.
本稿では,SDGsを活用した地域創生,持続的なまちづくりについて,その動向を概観するとともに,SDGs達成に向けた鍵となる要素を示す.
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