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はじめに
国際移住機関(International Organization for Migration:IOM)は,世界的な人の移動に関する課題を専門に扱う国連機関である.今日の「移民」1)は,国境を越える者と国内移住する者を合わせて,有史以来,最も多い約10億人である.すなわち,世界の7人に1人が移民と推計されている2).その背景には,災害,紛争,経済的不均衡など,さまざまな要因がある.IOMは「正規のルートを通して,人としての権利と尊厳を保障する形で行われる人の移動は,移民と社会の双方に利益をもたらす」という基本理念に基づき,直接支援や技術協力などを通じて,移住にまつわる課題の解決に努めている.保健医療分野における人道・開発支援もIOMの役割の一つである.
人の移動は健康の社会的決定要因の一つであり3),国境を越えた移動の拡大を背景にして,感染症対策についても国際的な取り組みが強化されている.公衆保健上の安全を確保することを目的として世界保健総会で1969年に採択された「国際保健規則」(International Health Regulations:IHR)についても,人口移動の増加に伴う感染症の拡大に対する懸念などから,各加盟国がアウトブレイク対応に関して最低限備えておくべき能力(コア・キャパシティ,core capacity)を規定した改訂版が2005年に採択されている4).
IOMは,人の移動や国境管理に関する専門性を生かして,コア・キャパシティのうち,国境地帯などにおけるサーベイランス強化や入域地点(point of entry)の能力強化などを支援している.
入域地点とは,旅行者,輸送機関,物品などの国境を越えた入出国のための通過点(空港,港,陸上越境地点),および,それらに対して入出国手続き業務を提供する機関ならびに区域をいう5).IHRでは,各国は自国内の指定した入域地域において衛生措置を監督し,公衆衛生上のリスクを阻止することが求められている6).
IOMが活動する国々(特に本稿で例示するアフリカ諸国)では,陸続きの国境線の至る所が長大な陸上越境地点となり得るため,入出国管理施設が必ずしも整備されていない越境地点もある.IOMはそうした面の能力強化にも取り組んでいる.
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