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はじめに
近年,テレビ,新聞,インターネットニュースなどで食品の微生物汚染による食中毒のニュースが毎日のように報道されている.中でも,①2014年に花火大会において露天で販売された冷やしきゅうりの喫食によって500人以上が感染した腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)O157のアウトブレイク1),②同年に,学校給食で提供された食パンで1,300人近くが感染したノロウイルスのアウトブレイク2),③2012年に高齢者施設において浅漬けの喫食によって169人が感染し8人が亡くなったEHEC O157のアウトブレイク3)など,大規模食中毒事例が毎年のように発生している.さらに特に記憶に残るものとして,2011年に,汚染された牛肉をユッケとして生で喫食することによってEHEC O111に181人が感染し,小児を含む5人が亡くなるというアウトブレイク4)が発生し,その結果,厚生労働省による牛肉の生食(ユッケなど)の基準設定や牛レバーの生食の規制へとつながった事例が挙げられる.
海外でも,①2011年に欧州各国で4,000人以上の感染者と46人の死亡者を出したエジプト産スプラウト種子を原因食品とする大腸菌O104:H4のアウトブレイク5),②2011年に米国で146人が罹患し,うち30人が死亡,1人が流産したカンタロープメロンによるリステリアのアウトブレイク6),③2008年にカナダで23人が死亡した“そのまま喫食可能な”(ready-to-eat:RTE)食肉製品によるリステリアのアウトブレイク7)などが発生している.
患者数の拡大を防ぐには,まず,患者発生の迅速な把握と,被害実態の把握が重要となる.わが国をはじめ,世界各国では各種感染症サーベイランスシステムによって患者の発生を迅速に探知することで対応速度を速め,さらなる患者の発生を防ぐような努力を行っている.それらは医師などからの報告を待つかたちとなる「パッシブ(受動的)サーベイランスシステム」(passive surveillance system)であり,アウトブレイクなどの大規模事例探知には大変,効果的であるが,平常時における,散発事例を含めた被害実態の全体把握には最適とはいえない部分がある.それを補うために,各国では既存のパッシブサーベイランスシステムの不得意な部分を補完することが可能な「アクティブ(積極的)サーベイランスシステム」(active surveillance system)を活用し,これらを組み合わせることで,より精度の高い被害実態把握を試みている.
本稿では,食中毒被害の実態把握のために各国で行われているアクティブサーベイランスについて概要を紹介するとともに,筆者らの日本における同様の試み8)9)について紹介する.
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