映画の時間
—フランスで大ヒットの社会派ドラマ—ティエリー・トグルドーの憂鬱
桜山 豊夫
pp.709
発行日 2016年9月15日
Published Date 2016/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208516
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日本でいえばハローワークでしょうか,職業紹介機関の窓口で,相談者がカウンセラーに苦情を申し立てる場面から映画が始まります.相談しているのは邦題にもなっている主人公のティエリー・トグルドーです.失業して1年半になる彼は,再就職を目指してクレーン操縦士の研修を受けたのに,いざ採用試験を受けると,建築現場の経験がない者は採用されないと言われ,せっかく受けた研修が,まったく就職に役立たなかったことを,カウンセラーに文句をつけています.お役所仕事はどこの国にもあるようですが,この冒頭のシーンから,本作品は全体にわたって,ドキュメンタリー映画を見ているような感覚を覚えます.監督のステファヌ・ブリゼは,作品に現実感を与えるために,撮影監督にドキュメンタリー映画出身のエリック・デュモンを指名し,また出演者の多くも,主人公を除いて,多くはプロの俳優ではなく,ノンプロを起用したとのことです.ドキュメンタリー感覚に満ちた映像に観客は知らず知らずのうちに引き込まれていきます.
カウンセラーに苦情を言いながらも,彼は再就職活動に励むしかありません.受給している失業保険の給付期限も迫ってきます.家のローンはまだ残っており,愛する妻と,障害をもつ息子の生活も守らなければなりません.邦題にもある「憂鬱」な気分は,ドキュメンタリータッチの映像からも十分に伝わってきます.しかし「憂鬱」の種は,再就職先が見つからないというだけではありません.
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