映画の時間
—セーヌ川のほとり 人生はめぐり逢う—パリ3区の遺産相続人
桜山 豊夫
pp.887
発行日 2015年12月15日
Published Date 2015/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208330
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風采の上がらない中年の,というか初老にさしかかったアメリカ人の主人公マティアス(ケヴィン・クライン)がパリにやってきます.父親が亡くなって,パリにあるアパルトマンを相続し,物件を確認しにパリを訪れたようです.最後の貯金をはたいて,パリ行きの片道航空券を買って,やっとの思いでたどり着いた先は,庭付きの高級アパート.そこには90歳になる老婦人マティルド(マギー・スミス)が暮らしていました.マティルドとマティアス,何故か似た名前の二人ですが,主人公はそこで驚きの事実を伝えられます.相続した物件は,フランス語でヴィアジェ(viager)と呼ばれる物件です.もともとは終身年金と言うような意味ですが,フランスにある独特な売買形態です.
家賃の支払いを期待する主人公に,老婦人マティルドは言います.「家賃というか,年金みたいなもの.少しの頭金でアパートが買える.あとは毎月定額を払い続ける.売り主が死ぬまで,ずっと」つまり,売り主が死なない限りアパートは買主のものにはならない,ということです.ちなみに,最初に支払う一時金をブーケ(bouquet),毎月支払われる一定額をレント(rente)と言います.レントが終身年金と同様であることからヴィアジェと呼ばれるのでしょう.
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