特集 女性と健康
女性特有の健康リスクとその周辺—性差の疫学
松原 純子
1
,
飯田 恭子
2
Junko MATSUBARA
1
,
Yasuko IIDA
2
1東京大学医学部保健学科疫学教室
2東京大学医学部保健学科母子保健学
pp.77-84
発行日 1986年2月15日
Published Date 1986/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207202
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■疫学統計に現れた性差
昨年,日本人の平均寿命は男子が74.20年,女子が79.78年に達したと報告された.人間は22対44個の常染色体と1対2個の性染色体を持っているが,女子はX型性染色体を2個持ち,そのため片方のX染色体上のさまざまな欠陥を,もう1個のX染色体が代償する可能性がある,男子はX型1個とY型1個の性染色体を持つが,Y染色体は男性化にはかかわるものの,X染色体上の遺伝子異常の代償行為は期待すべくもなく,この点にのみ着眼すれば,女子は受精の瞬間から男子に比べ,生存に有利な条件を備えていると思われる.
すなわち死亡統計をみると,いずれの年齢層でも男子の死亡率が女子を上回っている.まず胎児死亡率では男児が女児より20〜50%高く,新生児死亡ではそれ以上の差があると言われている1).1歳から中年にかけては,男女の死亡率の差は小さくなるものの,全体として男子の方が高い状態が続く.死因別にみても事故は男子が日本では2.76倍(合衆国では2.85倍),心疾患は1.08倍(同,2.04倍),感染症は1.33倍(同1.83倍),がんは1.26倍(同,1.5倍)と,女子より高い.時代的推移を合衆国の統計でみると,1920年から1970年にかけては男子より女子に死亡の減少が著しく,その差は拡大し,現在合衆国では男女の平均寿命に約8年の差がある(図1参照).
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