衛生公衆衛生学史こぼれ話
4.ヘマチノン・ガラスの復原
北 博正
1,2
1東京都環境科学研究所
2東京医科歯科大学
pp.289
発行日 1985年5月15日
Published Date 1985/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207041
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別天師がリービヒに師事して,化学を修めたことは前述のとおりであるが,彼は化学の知識を応用していろいろなことを試み"万能者(Alleskönner)"と呼ばれるようになったが,彼の実学者ぶりを二,三紹介しよう.
ときのバイエルン国王ルードウィヒ1世は1844年,別天師にいわゆる古代紫(Porporino antico)の復原を依頼して来た.これは学者,芸術家よりなる調査団が,ポンペイの廃墟から持ちかえったもので,これまで復原は成功していなかった,彼はこの純粋な赤色は化学的組成(酸化鉛+珪酸亜酸化銅)によるものではなく,技術的過程において出現することを考えつき,溶融したガラスをゆっくり冷却することにより,亜酸化銅と珪酸の結晶性の化合物が美しい色彩を呈し,立派に成功した.さらに珪酸を硼素におきかえて,いわゆるアストラリト(Astralit)と称する青色のものも得たが,このガラスの中には金色に輝く微細な結晶がちりばんで,美しいものであった,彼はこの手法を応用し,ヘマチノン(Hämatinon)及びアベントゥリン(Aventurin)を復原したが,このうち最も貴重とされたものはヘマチノンで,国王は大いに喜び,別天師はますます国王に信頼されるようになった.
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