特集 地域福祉サービス
母子家庭の健康問題—東京都における最近の動向から
京極 高宣
1
Takanobu KYOGOKU
1
1日本社会事業大学社会福祉学
pp.289-291
発行日 1981年4月15日
Published Date 1981/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206289
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■就労と家事・育児のジレンマ
わが国の母子福祉法では,母子家庭の児童に対して「心身ともにすごやかに育成されるために必要な諸条件」(2条)を保証すると同時に,その母親に対して「健康で文化的な生活」(同)を保障することを基本理念として規定している.われわれは,この規定を憲法25条にもとづく国民の生存権保障として,ごく一般的に理解しがちであるが,母子家庭にとってその母親の健康を保障することは,一般家庭の母親のそれと比べてはるかに重要な意味をもっている.というのは,母子家庭の母親はおおむね一家の大黒柱として就労によって生計を営んでおり,その健康状態いかんでは直ちに就労困難に陥り,生活保護受給世帯に容易に転落せざるを得ないからである.また母子家庭の母親は,就労と子どもの育児・家事とのジレンマに苦しみ,健康状態に無理を生じやすいことも,よく指摘されるところであろう.ちなみに,婦人の就労率は,結婚や育児とのかかわりで,20歳代で高く,30歳代で下がり,また40歳代で上がり,50歳代以降で低くなるという"M字型"就労パターンをとるといわれる.しかし母子家庭では,むしろ反対に,子育てに最もエネルギーを割かれる30歳代に就労率が異常に高くなっており,一般家庭とのギャップがきわめて顕著であり,そこからとくに中高年齢になってから母親の健康状態にマイナスの作用がもたらされることも推測される.
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