特集 アジア諸国の産業保健
非職業性疾患
西川 滇八
1
Shinhachi NISHIKAWA
1
1日本大学公衆衛生学
pp.335-338
発行日 1980年5月15日
Published Date 1980/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206086
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■はじめに
産業保健において非職業性疾患が問題になる場面としては,2種類ある.
その1つは,開発途上国において,ようやく産業革命が始まったばかりの時期である.それは洋の東西を問わず経験しているところである.これを筆者は産業保健の第1期と呼ぶことにしている.すなわち,英国においてはSir Edwin Chadwickが "Report on an inquiry into the sanitary condition of the labouring population of Great Britain, 1842" において述べているごとく,労働者階級の子弟は満5歳になるまでに半数以上が死亡し,都市における労働者階級の平均死亡年齢は貴族より20歳以上も低く,商人よりも1〜6年も短い.その死亡原因は劣悪な環境衛生条件にあり,必ずしも職業性疾患とは限らない.コレラ,チフスなど一般の急性伝染病による,ということであった.わが国においても,日清・日露の戦争を契機として産業革命が進展した.その経過において「女工と結核」は産業保健の重大問題と化し,工場法が施行されるに至ったことは周知のとおりである.要するに産業の発達段階においては,社会的にも事業所においても環境衛生面に欠陥があり,さらに過重労働や長時間労働などと栄養補給の面におけるバランスも崩れ,一般の疾病とくに伝染病の流行をみるに至るわけである.
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